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桃太郎
10
「お前、そこで何をしている! この実は私のものだ、そこから去れ!」

なんてずうずうしいのか、桃太郎は残り少ない果実をとられてはたまらない! と、声を張り上げた

枝の上の人物は聞いているのか聞いていないのか、そこから動く気配はない。

「聞いているのか!」

一体どんな顔をした無礼者なんだと、桃太郎は傍に落ちていた懐中電灯を掴むと上に向けて照らした。
その瞬間桃太郎の体が吹っ飛ぶ。

「ぐっ…は……!?」

桃太郎の手から離れていった懐中電灯がコロコロと転がっていった。

「いっ…げほっ、ごほっ!」

上にいた人物がフードを靡かせながら衝撃にむせた桃太郎の前に飛び降りた。
深いフードと暗い森中のせいで、顔はよく見えない。

「…ここは俺の場所なんだけど?」

クッ、と笑いながら言ったその声は男のものだ。背丈からしてまだ子どもだろう。
少年は仰向けに倒れた桃太郎の腹部をググ…と踏みつけた。

「痛っ…くるっ、苦しい……!」
「ここが俺の、鬼の住処だって知らなかったの? よそもん? じゃなきゃこんなとこ入ってこないもんな」

腹部を押す力はだんだん強まってきている。桃太郎は苦しさからもがいた。そしてふと腰にあるきび団子を思い出し、巾着袋の入り口を開き少年に向かってなげた。

「!? …ぐああ……っ!」」

バチバチ音を弾けさせ少年は後ろに倒れた。

「げほっ、げほっ…!」

咳き込みながらさっさとこんな恐ろしい所から逃げようと桃太郎は懐中電灯を掴んで走る。
だがビリビリッとした重い空気が背後から漂うのを感じ、恐る恐る後ろを振り返った。

「この…人間風情がっ…!」
「ひっ!」

地を這うような声とともに、キレた少年がゆらりと立ち上がっていた。
顔は見えなくとも凄まじい怒りのオーラを発っしていることは、空気の読めない桃太郎にもわかる。
そのオーラに恐怖で足がすくんで動けない。

「…あ、あ……」
「死ね!」
「ぐぅっ…」

飛び掛かられてドタンと二人同時に倒れる。即座に首を絞められ、桃太郎は空気を得ようと口をパクパクと動かした。バタバタ暴れてみても少年の力は弱まらない。
苦しい!苦しい!苦しい! 助け…!
霞んでくる視界に桃太郎の頭の中で“死”という言葉がよぎった。

死? 死ぬなんて、嫌だ…!

桃太郎は必死で暴れた。

死にたくない! と、暴れまくった桃太郎の手が少年のフードにあたった。
フードが捲れ少年の顔があらわになる。と同時に少しばかり首を絞める力が弱まった。
桃太郎は無意識に転がっていた懐中電灯を手に取り、少年に向けた。
光に目を細めながら少年の顔を見る。
オレンジがかかった金の目に、銀髪。

「な、ごほっ、何故…」

そろそろと腕を伸ばし触れてみれば、サラサラの、桃太郎の自慢の髪だ。
同じ顔をした二人はお互いの顔を見合った。
そして程なくして桃太郎の意識は途切れた。

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